プロローグ

 セイル=フィード──。

 そこは青く煌く二つの海に囲まれた、緑あふれる美しい世界。

 大陸とよべるほどの広さではないが、人、獣族、妖精……その他様々な種族達が、独自の文化を築き各々の生活を送っている。

 人は伝説の総賢者アトラスの恩恵を受け、その豊かな知能を活かして町や国を造り、獣人族の並外れた体力は、人々が生きる上で頼もしい支えとなる。

 妖精や小さな精霊達ですら、属性が全ての源となるこの世界において欠いてはならない存在であった。

 

 セイル=フィードには約十五年の周期で≪黄泉の宴≫と称される皆既日食が訪れる。

 太陽が月の影に隠れ、約一月もの間、台地が冷たい闇に覆われるのである。その間異なる種族達は、蓄えた食物を、僅かな灯りを分け合い、星の無い長い夜の終幕をただ静かに待ち続ける……。

 そうした過酷な状況下であっても、世界の平和と種族間の信頼は、手を取り合い励まし助け合う事で保たれているのであった。

 

 それは前回の黄泉の宴から、約三年後に勃発する。

 死を司り、地上に生きる者達と相容れぬ種≪魔族≫が突如として動き出したのだ。

 暗雲の空を覆う無数の黒竜、そして邪竜や魔獣の猛攻によって島は半壊。その後も幾度に亘って、王都フリースウェアーを中心とした各地域は魔族の襲来にあう。

 後に≪黒竜戦争≫と称され語り継がれる事となるその悲劇は、宴により固く結んだ種族間の信頼すら、弱く脆い心を持つ者達の手で引き裂かれる事となる。

 

 果たして魔族の真の意図とは。歪みが生じた青く美しき世界の運命は……。

 物語の舞台は、黒竜戦争から十二年後のセイル=フィード。生き別れた血族を捜す者、己を磨く者、仇に復讐を誓う者、そして真実を探る者──。

 宴の再来が刻々と迫る中、様々な想いを抱く者達の旅が今、始まろうとしている。